貴公子と偽りの恋
『綺麗な髪なのに、本当に切っていいんですか?』と、美容師のお姉さんから念を押されたっけ。


今朝、姿見で見た私は、私であって私じゃないような。まるで他人を見ているようだった。

でも、メグちゃんには見えなかった。私はそもそも、メグちゃんには似てないと思う。イメチェン後の私を見ても、紳一はそんな事は言ってなかったし。

あ。もし香山君もそう思ったら、この苦労は無駄になるのだろうか…

それを考えたら、急に不安になってしまった。

しっかりと、身代わりを演じなくては…



しばらくして、階段を降りて来る人混みの中に、香山君を見つけた。香山君だけが、光り輝いて見えた。

私は人目もはばからず、香山君に走り寄っていた。

「おはようございます。裕樹先輩!」
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