貴公子と偽りの恋
「そんなにモテたのか?」

「そうらしいぞ。その篠原優子が好きな奴とは、おまえだったわけだ」

その瞬間、俺の胸がキュンとして、思わず胸に手を当てた。
俺の心臓、どうしちまったんだろう…

「おい、大丈夫か? 鍵貸してやるから、屋上でゆっくりしろよ」


遼から鍵を受け取り、俺は屋上への階段をゆっくりと昇った。


屋上に出ると、俺はコンクリートの上に仰向けで寝そべった。
空はどんよりと曇り、まるですっきりとしない。俺の頭の中と同じだなと思った。


俺は今でも竹中恵が好きだ。
篠原優子が笑った時、胸がドキンとしたのは、眼鏡を外したあいつの顔が、竹中恵に似ていたからだ。

『今の香山君が好きです』と言われた時、心臓が締め付けられるようだったのも、竹中恵に似ているからだと思った。

だから俺は、篠原優子に急いで眼鏡を掛けさせた。
しかし……

それでも胸の動悸は、治まらなかった。
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