貴公子と偽りの恋
私が後ろのドアから入るのと、1時間目の先生が、前のドアから入るのと同時だった。

同時セーフ、だよね?

気のせいか、みんなの視線をやけに感じながら、私は自分の席に着いた。

すると、前の席の恵子が、目を真ん丸にして私を見ていた。

「恵子、おそようだね? あぶなく遅刻するとこだったよ」

「あんた、優子だよね?」

「当たり前じゃない」

「びっくりだわ…。ずいぶん思い切ったね?」

「そう? コンタクトにして、髪を切って染めただけだよ」

「それ、普通は『だけ』って言わないから」

「そんなに変わった?」

「変わったなんてもんじゃないよ。別人みたい」

「変かな?」

「変じゃないよ。すっごい可愛い」

「ほんと? ありがとう」


『みんなどこ見てる? 授業を始めるから、前を向けー』

という先生の声で、恵子は「後でね」と言って前を向いた。
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