貴公子と偽りの恋
「ちょっと優子、大変だよ!」

3時間目の後の休み時間。
トイレへ行った恵子が、教室に戻るなり私に走り寄って来た。

「どうしたの?」

「どうしたの、じゃないわよ。あんたがモタモタしてるから…」

「え?」

「微笑まなくなった貴公子が…」

「何、それ?」

香山君はいつの間に『微笑まなくなった貴公子』って名前になったんだろう。可笑しくて『プッ』と笑ってしまった。

「笑ってる場合じゃないって。彼女が出来ちゃったらしいんだから!」

「………」

「今聞いたんだけど、今朝、女の子と一緒に登校して来たんだって。その女の子というのがね、不思議な事に誰も見覚えがないんだってよ」
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