年上の彼氏
「妊娠がわかって、産婦人科に行った帰りにたまたま会ったのよ。・・・誰にも会いたくなかったから1時間も電車に乗って、選んだ産婦人科だったのにさ。・・・あいつはどこにでもいる奴だったのよ」
少し呆れ気味に微笑んで話す。
「秋仁は雷太に話をしたほうが良いって何度も何度も言ってくれたな。親にも言えって。一人で抱え込むなって・・・悪い方向に考えてしまうからってね」
「お姉ちゃんは、どうして言わなかったの?」
私の質問にハンドルを、きゅっと握りしめた気がした。
「・・・その当時、進路が決まっててね。入りたい大学に合格してお母さんもすごく喜んでくれた。・・・入学金も払ってたし・・・そのお金も足りない分を、おじさんから借りたのも知ってた。・・・ここで「妊娠しました大学は行けません」そんなこと・・・言えなかった」
・・・おねえちゃんの気持ち凄く良く分かる。
私もそうだ。
「雷太のお父さんに言われたこともあったしね」
「婚約者のこと?」
「そう・・・でもね、本当のところは・・・逃げよ」
「逃げ?」
「うん。・・・怖くて逃げたの。・・・雷太に「諦めてくれ」そんな言葉をかけられることも怖かった。お母さんに「どうしてこんなこと?」って悲しい顔されることも怖かった。だから誰にも言わず自分で決めてしまった」
お姉ちゃん。
「その後、雷太の顔を見るのが辛くてさ・・・罪悪感もあったけど、何も知らない雷太に勝手にイライラしたりね。自分で決めたことなのに、気持ちの切り替えが出来なかった」
それは・・・
「思ってたより、きつかったな・・・」
その当時の気持ちを思い出しているのだろうか。
私は何も言葉をかけることが出来ずにいた。