雪色の囁き ~淡雪よりも冷たいキス~
Prologue -R-
「遼、雪が降ってきたよ」
夕食の買い出しからの帰り道、前を歩いていた紗矢花が不意に声を上げる。
「初雪、かな?」
白い息を吐きながら、彼女はこちらを振り返った。
「……本当だ。初雪だね、きっと」
彼女にならって見上げた夜空から、大きな雪の粒が、スローモーションのように緩やかな速度で舞い降りていた。
アスファルトへ黒い染みを作り、しだいに白く染めていく。
紗矢花は大きな瞳を輝かせ、降り積もる雪を夢中になって眺めていた。
その様子が可愛くて、雪よりも彼女の方に惹きつけられる。
寒さで赤く色づいた頬に。
かじかんだ細い指先に。
触れたいのに触れられない――。
彼女といると常に、そんなもどかしさが付きまとう。
「……どうしたの?」
視線に気づいた紗矢花が、小さく首を傾げた。
「いや、子どもみたいだなと思って」
まさか見惚れていたとは言えず、つい心にもないことを言って誤魔化してしまう。