雪色の囁き ~淡雪よりも冷たいキス~
紗矢花の代わりに、元恋人である彩乃を使う――。
そんな扱いをされても、彩乃は傷つくことはないらしい。
「彩乃だってあまり逢えない彼の代わりに、僕を利用してるんだよね?」
「そういえばそうだった……お互い様、だね」
紗矢花にこのことを知られたら、軽蔑されるだろうけど。
指で背中をなぞる彼女を避け、ベッドから下り床に落ちた衣服を身につける。
「彼女の体、我慢しないで奪っちゃえばいいのに」
「無理。嫌われたくないし。だいたい、僕のことは異性として見てないよ」
冷えた白いシャツを羽織りながら、溜め息をつく。
自分のことは、従兄ぐらいにしか思っていないに違いない。
平気で“大好き”と言うし、二人きりになることを恐れない。
「なら、わからせてあげればいいじゃない」
事情を知らない彩乃は事も無げに言う。
「もしそれができたとしても、紗矢花の彼氏に勝てる気がしないな」
「なんで?」
「紗矢花は……今の彼氏のことを、結婚を考えるほど好きみたいだから」
「だったら。そんなハードルの高い片想い、もうやめたら? いつまで続けるつもり?」
彩乃は呆れた目をしてベッドの上で頬杖をつく。
「それは……紗矢花が結婚するか。僕が紗矢花以上に好きになれる人を見つけたら、かな」