雪色の囁き ~淡雪よりも冷たいキス~
――帰り際、彩乃に頼みたいことがあったのを思い出した。
「あのさ。しばらく僕の彼女のフリ、しててくれる?」
起き上がった彩乃は、髪をブラシで梳かしながら首をかしげた。
「いいけど、どうして?」
「たいした理由はないよ」
「私は別に、遼と本気で付き合うことにしてもいいんだよ?」
その言葉に、ドアノブに手をかけたまま冷たい視線を彩乃へ送る。
「……冗談やめてくれるかな? 彩乃を選んだのは、僕に何も期待していないから。僕に対してそれ以上の気持ちがあるなら、もう逢う気はないよ」
その先にあるものを期待されても、何も応えられない。
過去に付き合っていたときも、彩乃に言われて仕方なく一緒にいただけだ。
これからも、彩乃を本気で好きになる可能性はない。
――紗矢花のことを、諦めるまでは。