雪色の囁き ~淡雪よりも冷たいキス~
紗矢花が口にする「好き」は、兄に対して使う「好き」と同じ意味だった。
自分を兄のようにしか思っていないことくらい、知っている。
片想いが始まったと思った束の間、紗矢花に彼氏ができてしまったときの衝撃を思い出す。
もう少し彼氏ができたのが早ければ、ここまで好きにはならなかったのに――と後悔しても遅かった。
すでに心の深い場所に、彼女が入り込んでいた。
それでも今、少しの間だけでも一緒にいられるのなら構わなかった。
たとえ自分のことを異性として見ていなかったとしても。
*
食事が終わり、紗矢花と二人リビングでくつろぎながらテレビを見ていた。
同じソファに座るのではなく、対に並んだ二つのソファへ別々に座る。
これが二人の距離。
動物が出てくる番組で、紗矢花が可愛いを連呼してはしゃいでいる。
画面の中の動物より、そんな彼女を見て癒されている自分……。
けれどその平穏は――自分にとっての平穏は、紗矢花にかかってきた一本の電話によって破られた。
「あ……。カレから電話だ」
ディスプレイを確認し、複雑そうにつぶやきながらソファから立ち上がる。
紗矢花は今、彼氏と喧嘩中。
この家に遊びに来てくれているのは、ただ単に、気を紛らわせるためだった。
つまり、こうして二人きりで会えるのは、紗矢花が彼氏とうまくいっていないときだけ。