雪色の囁き ~淡雪よりも冷たいキス~

ずっと彼氏の浮気に悩んでいる様子だったから、罪悪感は持たせたくなかった。

……なんて、綺麗ごとを並べて自分の想いを抑制してみたりして。

だけど本当は、罠だとわかっていても落とされてみたかった。



服を着替えるため寝室へ行こうとしたとき、紗矢花が身じろぎをしてソファから上半身を起こす気配がした。

緩やかに瞬きを繰り返し、こちらをぼんやりと見る。


「あれ……遼? 帰ってきてたんだ」


夢から覚めたばかりの柔らかな声と、寝起きの眠たそうな表情が、愛らしくて癒される。


「ごめん、遅くなって。待っていてくれたんだね」

「いいの、お疲れさま。ちょっと遼に話したいことがあったから」


紗矢花はそう言って上着を返してきた。


「何? 話したいことって」


受け取ったそれをソファの背にかけ、ネクタイを緩める。


「あのね。さっき地下に遊びに行ったら、すっごく可愛い女の子がいたの」


目を輝かせながら彼女は話す。


「彼氏がいないって言ってたから、遼に紹介しようかなと思って」

「………」

「歌も上手で、人形みたいに綺麗な顔なんだよ。きっと遼も気に入ると思う」
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