雪色の囁き ~淡雪よりも冷たいキス~
「今日、紗矢花の誕生日なんだって?」
隣からこっそり、真鳥天音が話しかけてくる。
彼はきちんとモデルを参考にして人物画を描いていた。
「そうだよ。よく知ってるね」
「悠里から聞いた」
「もしかして。今夜は彼氏とデートってこと? いいなー」
悠里がうっとりとした視線をよこしてくるから、私は乾いた笑いで返した。
「それほど、順調な関係ではないんだけどね」
「そうなの? もっと、うまくいってるのかと思ってた」
ピュアな悠里相手に誤魔化すのもどうかと思い、終わりかけの恋なのだと、肩をすくめる。
「何か辛いことあったら、話ぐらい聞くからさ。連絡して」
気だるげな表情に笑みを乗せ、天音が視線を前に戻す。
「うん。ありがとう」
そう言ってくれるだけで心強い。
本当に、いつ壊れるかわからない関係なのだから。
*
今年の誕生日は金曜日で、響は土日が休みだから、私はそのまま彼の家に泊まることになった。
トートバッグに着替えや洗面用具を入れ家を出る。
せっかくの誕生日なのに、なぜか気分は憂鬱だった。
きっと響を心から信用できていないせい。