雪色の囁き ~淡雪よりも冷たいキス~
第1章

①儚い雪

彼の家に着く頃には、雪はすっかりやんでいた。

黒い雲の合間から、未完の月が現れる。


マンションのインターホンを押してしばらくすると、鍵の開く音とともにドアが微かに開かれる。

私はそのドアを引き、目の前に立つ背の高い彼を見上げた。

長い前髪の下から覗く、くっきりした鋭い二重の目は静かで何も読みとれない。


整いすぎた顔立ちというのは彼のようなことを言うのだろう。

通った細い鼻筋。薄い唇。綺麗に整えられた真っ直ぐな眉。

それらがバランスよく配置されている。


(ひびき)……さっきは怒って出て行ってごめんね」


謝罪には全く反応せず、踵を返した彼はリビングへ向かう。

私はブーツを脱ぎ、彼のあとに続いた。

広いのにあまり家具が置かれていない、殺風景な部屋。

彼はフローリングの床に座り、二人掛けのソファを背もたれにする。


「今までどこにいた?」


立ったままの私へ鋭い視線を向け、彼は無愛想に聞いた。


「えっと……、遼の家」

「またあいつの家にいたのか。わざわざ何しに行ってんの?」


怪しむような眼つきで、響は私を見上げている。


「べつに何も……。ご飯作ったり、テレビ見たり」

「はあ? 飯作るって……何それ。なんで俺以外に作るんだよ」

「え、駄目?」


焦った私は、彼のすぐそばに座り込んだ。


「だって遼は、お兄ちゃんみたいなものだよ?」
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