十年先のLOVE・STORY
「亜衣先輩って、彼女、いるんですか?」

楽器の片付けの最中、私は、吉田先輩に聞いてみた。

「亜衣くん?」

吉田先輩は、にやっとした笑みを浮かべ、私の顔を、じっと見た。

「雅美ちゃん、もしかして、亜衣くんのこと、好きになった?」

そう言う吉田先輩の表情は、どことなく、人をからかっているようにも見えた。

「そっ・・そういうわけじゃないですよ。ただ、吹奏楽の1年生の間で、ちょっと、話題になって・・・。」

そんな言い訳をした私の表情、きっと、すごく挙動不審だったと思う。

「ふ~ん。亜衣くん、早速、話題になってるんだあ・・・。」

吉田先輩の言い方、意味深だった。

「彼女はねえ、今はいないと思うよ。亜衣くん、秘密主義だから、本当のところは、分からないけど・・・。」

『彼女はいない』

この答えに、私は、心の底から、素直に、喜んだ。
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