さよなら異邦人
「あっ、これだこれ、勝手に父さんが俺の名前を使ったやつ」


「ちなみに姉さんも、母さんも登場するぞ」


 そう言うと、息子は私のケータイを手にして操作し始めた。


「ねえ、これさ所々ギャグかましてるけど、そんなに笑えないよ」


「そうかぁ。ううん…やっぱり父さんの年齢で、お前達世代の会話や心情を表現するのは無理があるのかなぁ」


「でも、そんなに悲観する程でもないよ。まるっきり読めないって感じじゃないから」


「そうだ、龍之介お前これを読んでちゃんと感想を聞かせてくれないか。この作品は、丁度今やっているケータイ小説大賞というコンクールに投稿する予定なんだ。まだ、完成してないんだが、お前の目線で父さんにアドバイスをくれないか」


 息子が食いついて来たのを幸いに、私は家族の中に理解者を作ろうと必死になった。


「めんどいなぁ。第一、俺の国語の成績知ってんだろ?俺に読ませる位なら、姉ちゃんの方が適任じゃねえの?」


「里佳子にもいずれ頼んでみるけど、その前にお前からな。母さんに内緒で小遣い、やるから」


 とうとう私は禁断の奥の手を出してしまった。買収という、親が子供に向って使う非常手段を……


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