さよなら異邦人
夏休みに入り僕は、母の会社の社長さんからの紹介で始めたバイトに追われていた。

忙殺と言う言葉をたまたま辞書で見つけると、正しく今の自分がそうだ、などと妙な納得の仕方をした。

バイトは思っていた以上に大変だった。

引っ切り無しに入港するコンテナ船。

その船から吐き出される夥しい数のコンテナ。

いったい、そんなに使う必要があるのかと思う位に、運び込まれる住宅用建材の大群。

僕はその大群に群れる蟻の一団に加わった。

本当に蟻んこのような気分にさせられた。

でも、それが良かったと後からしみじみと思ったりもした。

汗みずくになっている時は、少なくとも里佳子の事を考えずに済んだからだ。

職場は、僕が初めて聞く言葉が飛び交っていた。

中国語にタガログ語、そしてアニータで耳慣れたスペイン語。

僕がちょっとだけ理解出来る英語は、一緒に働く外国人達との会話の時だけしか交わされず、英語って、みんなが思っている程グローバルなものじゃないのかなとも思ったりした。

まあ、僕の英語力にしたって、ぶっちゃけ大した事ないから、半分も通じてはいないのだろうが。

でも、彼等のお陰で学校では教えて貰えないような単語を幾つか憶える事が出来た。

キャット・アンド・ドッグ

てんやわんやという意味だ。

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