さよなら異邦人
多分、アニータがその言葉を耳にしたのは、僕とリュウノスケがどうでもいい事で口喧嘩していた時だと思う。

「てめえ、ガキのくせしやがってズルむけたあ、親の上前はねるようなもんだ!」

「意味判んねえ事言ってんじゃねえよ」

「この俺でさえ、半ムケだっちゅうのに!」

「だから、意味判んねえって!」

「ニキータがてめえに惚れてんだよ!ああ、悔しい!」

「それ位の事で息子相手にマジ切れするなんて、大人げねえっちゅうの。大体がズルむけって何だよ!」

「ズルむけは、親を差し置いてっちゅう意味だ!」

確かこんなやり取りだったと思う。

その後でアニータが、

「オトーさん、サンジュとけんかした。たぶん、悪口ね。でも、意味わからない」

憶えなくていい。そう言ったけど、彼女は引き下がらなかった。

仕方が無いから、子供は親より偉くなっちゃいけないって意味だよと教えたら、とんでもない事にアニータは、

「ずるむけやろう!」

をあちこちで使うようになった。

僕は慌てて、

「アニータ、英語のファック・ユーと一緒だから、レディは使っちゃダメ!」

と意味の訂正をした。



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