さよなら異邦人
「このガイジンさん、一緒に働いてたんだ」

僕はリュウノスケにぽつりと言った。

「どれ、新聞見せてみろ」

僕から引っ手繰るように新聞を受け取り、リュウノスケは食い入るようにその記事を読んだ。

「とんでもねえ奴だな」

リュウノスケは一言だけそう言うと、飲み掛けのビールを一気に飲み干した。

確かにリュウノスケの言う通りかも知れない。

ロペスが警察に捕まった理由が、年寄りを狙ったひったくりだったのだから。

でも、僕には彼がそんな事をしたなんて信じる事が出来なかった。

職場では、誰よりも真面目に働いていたし、仲間からも頼りにされていたから。

その事をリュウノスケに言うと、

「それとこれは別ってもんだ。どんなに普段人には真面目にやっていると思われてもだ、土壇場でこういう事をやっちまったらぜえんぶ台無しになっちまう。却って日頃そう真面目じゃねえ人間の方が、いざという時はまっとうなもんさ」

「それって、自分を美化しようとしてない?」

「そう聞こえたか?」

「うん」

「ならばそうだ」

「自分で言ってりゃ世話ねえや」

「誰も認めてくれない時は、自分でアピールする。これが現代社会に於ける生き残る為の鉄則だ」

相変わらずリュウノスケの言っている事は、何処までがマジで何処までが冗談か判らない。


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