さよなら異邦人
「でもさ、彼にだってこうなっちゃった理由ってある訳じゃん?」

「悪い事しちまったら、それは理由じゃなくて言い訳っちゅうもんだ。いいか、サンジュ、お前も場面によっちゃあこうならねえとも限んねえんだぜ。だから、心して聞けよ」

たまにリュウノスケは大真面目に語る時があるが、この時がそうだった。

「人間ってえのは、どうしようもなく弱い生き物なんだ。文明を持たない他の動物を見てみろ。正義も悪も存在しない中で、奴等は生存という二文字だけの為に生きている。人間も、太古の昔はそうだった。けど、文明ってえもんが発達しちまったが為に、心が介在するようになった。判るか?」

「うん、何と無く」

「その心が曲もんでな。善と悪を意識させるような働きをしやがる。どんな悪党でも、三分の善を持っている。で、なんで曲もんで始末が悪いかってえと、微かに残った善のヤローが悪に負けた時に、仕方ねえじゃんか、ってえこじ付けを先に考えちまうんだ。お前も心当たり、ねえか?」

僕は暫く考えた。リュウノスケは辛抱強く僕からの答えを待っている。

ふと、意味も無く里佳子の事が浮かんだ。まるで関係の無い話なのに、何故か彼女の事を思ったものだから、狼狽した。

「女の事でも考えてたか?」

鋭い!ていうか、なんで判るんだよ!

「淳子からそれとなく聞いてるぜ」

そういえば、僕は母さんには里佳子の事を話していた。一度は会わせた事もあったから。

「一緒だよ」

「えっ!?」

又しても意味深な事を言うんだから……


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