さよなら異邦人
「その女に、お前はちゃんと好きだってえ事を伝えられなかった…その事を悔やんでるし、それと同時にどっかで伝えられなかった言い訳を考えてる……」

「そ、そんな事ねえよ!」

「失ってから、大概後悔するもんなんだ。このガイジンもそうさ。一生懸命汗水垂らして働いてる時は、自分が与えた信用とか信頼ってえもんに気が回らねえ。悪さをしちまって、ぜえんぶ失っちまってから気付くんだ」

「リュウノスケの言ってる事って、何だか無理やりのこじ付けに聞こえるよ」

「判ってねえな。俺が言いたいのは、明日はどう人間の心が転ぶか判らねえって事だ。善の心が悪に連戦連勝なんて日は、そうそうねえぜ。だから、常に考えるんだ。言い残した事、伝え残した事、遣り残した事はねえかなってな。お前は、女の事が好きだったのにも関わらず、それに気付こうとしなかった。別に今じゃなくてもいいや、明日があるさ、で、明日が来たら来たで、又明日があるさって、先延ばしにしてしまった。それを今更悔やむのに事欠いて、なんで病気だって言ってくれなかったんだ、と相手のせいにしちまっている」

僕は何も反論が出来なかった。

気付いてなかった。

本当にそうだった。

そして、リュウノスケが言っていたように、気付かないようにしていたのかも知れない。

リュウノスケの言葉に付け加えるのならば、心地良かったからなんだ。

好きだと言葉にしないでいた方が、何と無く一緒に居易かったから……。




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