さよなら異邦人
僕は机の上の花を一輪だけ貰い、それを持って母に会いに行った。

忙しい筈なのに、母は突然訪れた僕を思ってくれたのか、仕事を途中で切り上げて時間を割いてくれた。

持っていた一輪の花を母に渡すと、

「どうして私に?」

と聞かれた。

自分でもどうしてなのか判らなかった。

「これ、ラベンダーね。この時期にこれだけ鮮やかな色を付けているのは、なかなかないのよ」

聞くと、その花は春の花だという。

今はハウス栽培とかで、割と見る機会は増えたと言うが、無理やり季節外れの時期に生かされているのも、可哀そうだなって思った。

「まるで、あの子そのものね」

母が言った意味は、僕が思っていたのとは、少し違っていた。

「母さんが言った意味を知りたかったら、ラベンダーの花言葉を調べてみなさい。意味を知れば、サンちゃんにも判るから」

両親揃って、うちは謎掛けみたいな事を言う。

「本当に母さんが貰っていいの?」

「ああ。あいつ、母さんの事、好きだったし」

「それだったら、サンちゃんの事もじゃない。他の誰よりも……」

「うん……でも、母さんに貰って欲しいんだ」

「サンちゃん」

「何?」

「大人になったね……」

そんな事ないさって言おうとしたのに、言葉が出なかった。

代わりに、教室では出なかった涙が、一滴だけ落ちた……。

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