さよなら異邦人
 小説の締めと書き出し程難しいものは無い。


 例えるのなら、飛行機の離陸と着陸のようなものか。


 目指す滑走路は見えている。そこにどう着陸させるかが問題だ。


 そんな事を妻相手に延々と語っていた。


 晩酌の酔いもあったろうが、作品の完結が間近になっている事での高揚感がそうさせたのだろう。


「ふと思ったんだけど、ケータイ小説を書くようになってから、そんなに語ったのって、初めてよね」


 妻が優しく微笑みながら言った。


「そうか?」


「ええ。書いている事さえ話さなかったもの」


「それは、お前達が聞きもしなかったから、」


「私はずっと知ってましたけど」


「知っていたのに、何も聞かなかったのはどうしてだ?」


「あなたの口から聞きたかったの。いつ話してくれるのかなって思い続けていたわ」


「で、知った今はどう思っているんだ?」


「そうねえ……答えはもう少ししてから言うわ」


 妻の勿体ぶる言い方が、妙に引っ掛かった。



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