さよなら異邦人
少し肌寒さを感じながらも、僕はずっとその光景を眺め続けた。

母から借りた一眼レフを構え、漸くファインダーを覗き込んだ。

なだらかな斜面に広がる紫色の絨毯……

ファインダーを覗きながら、そんなフレーズを思い描いた。

が、余りにも在り来たりな言葉だったものだから、我ながらボキャブラリーの無さに苦笑してしまった。

リュウノスケほど僕には文才は無いか……

高校を卒業した後、僕は大学へは進まなかった。

まだ何をやりたいのか見つけられずにいたので、一年間だけ時間を貰った。

たった一年で見つけられるとも思えないが、とにかくこの期間は何にでもチャレンジしてみる事にした。

卒業式を終えた後、僕は母に、

「あの花がいっぱい見れる場所へ行ってみたいんだ」

と、言った。

「なら、富良野が一番かも」

去年のバイトで貯めたお金が手付かずで残っていたから、それを旅費にし、僕は北海道へとやって来た。

そして、一面見渡す限りのラベンダー畑で、里佳子の香りに包まれていた。



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