さよなら異邦人
 零れた溜め息には、大きな充足感と安堵感が詰まっていた。


 最後のページを書き終え、私は少しばかりの躊躇いを感じながらも、完結ボタンをクリックした。


『さよなら異邦人』は、こうしてどうにか締め切りに間に合った。


 完結した作品ページを長い時間眺めていた。


 自分なりには満足行く仕上がりにはなったが、十中八九大賞の選には漏れるだろう。


 一次審査、二次審査を経なければ、最終選考にまでは残れない。読者投票という事だから、端から期待薄だ。


 けれど、私は書いた。


 それでいい。書けた事を自らに誇ればいいじゃないか。


 パソコンの画面に映し出された最後のページを見ながら、私はそんなふうに思っていた。


「出来たのね」


 背中越しに覗き込む妻の声。


 幾度となくそうやって声を掛けられて来た。


 初めの頃は、面映い気持ちで聞いていたその声も、今では心の何処かで待ち望む自分が居た。


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