さよなら異邦人
「そんなに表紙ばかり眺めていないで、中も覗いてみたら」


「あ、ああ……」


 横書きではあるが、そこに記された文面は、間違いなく私が己の肉体から削り出した結晶であった。


「私からの、大賞よ」


「本当にありがとう。何よりも嬉しいプレゼントだ」


 何ページか捲っていると、はらりと一枚の古い便箋が本の間から落ちた。


「何だこれ?」


 妻は微笑んだまま、何も語らない。


 便箋を広げてみた。


 小さな文字がびっしりと埋まっていた。


 末尾に目をやると、少し震えた文字で、


『坂巻千鶴子』


 と書かれてあった……。



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