さよなら異邦人
「待てよ、なあ、どうした?」

「どうもしない……」

やっぱり様子が変だ。

「そっか……途中まで送るよ」

始業前はいつもと変わりがなかったのに、いったいどうしたんだろう。

早足で僕の半歩先をすたすたと歩く里佳子は、後ろから見ていると、何だか怒っているような雰囲気だ。

「お前、ほんとに身体の具合悪いのか?」

無言で青山通りをすたこら。

普段、彼女が利用するバス停を通り過ぎ、そのまま渋谷方向へと緩やかな下り坂を歩いた。

「ひょっとして、俺が今日は付き合えないって言ったから拗ねてんのか?」

里佳子のの足がピタッと止まった。

くるりと振り返った里佳子は、満面の笑みを浮かべていた。

「……!?」

その笑顔は、今まで見たどの笑顔よりも嬉しそうな表情だった。

「大成功っ!」

「はあ!?」

何が大成功なのか、皆目見当もつかず、僕は間抜け面を里佳子に晒すだけだった。


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