さよなら異邦人
「加瀬が放課後付き合えないって言うから、だったらその前ならOKって事じゃん」

「お前、まさか仮病?」

「世間ではそうとも言う」

「アホくさ。心配して追っ掛けて来て損した」

「そんなに心配だった?」

そう言うなり、里佳子は僕の顔まで10センチとない至近距離まで近付いた。

「知らん!」

「照れるな」

「照れるなじゃねえよ。お前さあ、俺が後を追っ掛けて来るって最初から思ってたの?」

「まあ、100%の自信は無かったけどね。ちょっとした賭けってやつ?でも、嬉しかったぞ」

くるりと身体をひるがえし、里佳子は再び早足で歩き出した。

斜め後ろから彼女の横顔を覗くと、だらしない位に顔が綻んでいる。

何だかしゃくだ。

うまい具合に彼女の策略に引っ掛かってしまった自分のアホさ加減が情け無い。

「リカコ、何処行くつもりなんだよ」

「別に決めてないよ。何処だっていいんだ。加瀬と……」

「何?」

「何でもない」

何でもなくはない事など、幾ら鈍感な僕でも判る。

ちょっとこそばゆいような、妙な気分のまま、僕は彼女の背中を見つめていた。




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