IN THE CLUB
そう言ってTOMOKAZUはその粉をグラスの中の水に落とした。
粉は水面で踊るように跳ねた。
まるで水を得た魚のように。

「綺麗・・・。」

ブラックライトが照らし出す幻想的なイリュージョンのように・・・。
「だろ。よく泳ぐ。こいつはいいネタだ。」
TOMOKAZUの笑顔はいつも凄くやさしい。

もう、怖いなんて思わない。TOMOKAZUが微笑んでくれるなら・・・。

「何で入れる?」
後の男が私を呷った。
「オレンジキャップ~赤キャプ~ガラスパイプ吸引パイプー~Tスプーンにアルミなんだってあるぜ!!やっぱポンプが一番か!?」
男はそういってゲラゲラと笑い出した。
「うるせぇよ。お前は黙ってろ。」
TOMOKAZUは振り返りざまに、静かな口調で男を蔑んだ。
「注射器は怖いよな。アブってみるか。」
そう言ってTOMOKAZUは粉をアルミハクの上に乗せた。
私の顔の前にそれをかざすと、使い捨てライターの火でそれをあぶった。

ほんのりと白い煙が上がり、いい香りがした。
初めて嗅ぐ香りだった。
以外にもその香りはフルーティーなコロンのような感覚で・・・。
イヤとは感じなかった。

「隣の部屋に行こう。」
TOMOKAZUの声で我に帰る。
彼が私の手を引いた。
パーテーションの向こう側には大きなソファーが置いてあった。
TOMOKAZUのやさしい手、心臓の距離が近づいた気がする・・・。
まるで大きな波に吞まれたみたいだった。
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