IN THE CLUB
それから数日が過ぎたとき、KOUがイベントを休止するという知らせを受けた。
それと同時にもう一報・・・。

KOUの彼女は意識を戻すことなく死んだ・・・と。

レギュラーもクルー全員が何も言葉を発することはなかった。
仲のよかったスーさんでさえKOUとの無理な連絡はするなと俺に言ってきた。
「今はそっとしておいてやれ。」と・・・。
誰よりもKOUが一人の女を愛していることはここにいるメンバー全員が知っていた。

年が明け、桜が咲き、また夏が巡ってきた。KOUというMCがこのredstarにいたことすら、誰もが忘れかけていた。
KOUの抜けたこのredstarのレペゼンはこの俺だと誰もが納得していた。
レペゼンは二人はいらねぇ。十年間何一つ変わっちゃいねぇ俺がそこにはいた。

しかし一年が過ぎようとした頃、ついにやつが戻ってきた。
悲しみに打ちひしがれ、だけどそれに打ち勝った一人の男が・・・。

「KOUだ・・・。」
懐かしいその名前に俺は反射的に振り向いた。
「よう!」
まるで、昨日あったばっかりだろって顔をしたKOUがそこにはいた。

「ただで戻ってきたりしねーよ。新曲を引っさげてきた。」

入れてくれよ。
KOUは一枚のCDをスーさんに手渡した。
「打ち込みで作ったトラックだから、ちとしょぼいけどな。」

KOUはマイクを握りしめた。まるで過去の映像を見るかのような錯覚に襲われた。
イントロの出だしから、俺たちはKOUの世界に引き込まれた。

バースが明けKOUの歌声がフロアに響いた。
俺が知っている現実とは真逆のアンダーグラウンドから見た世界を知った男の声が・・・。
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