黒白の彼方


「ほら食うぞ。」

と言いながらテーブルに出来立てほやほやのお味噌汁や野菜炒めが並べる。

簡単に作ったものみたいだけど美味しそう。
うん、美味しそう…なんだけれど。


「先生…あの…。
料理はすごくおいしそうなんですけど、これって…。このお味噌汁が入ってる容器って。

ビーカー…です…よね?実験の時に使う。」


行儀は悪いけど思わず指を指して尋ねてしまった。
ビーカーの中にはある一定のラインまでお味噌汁で充たされている。

ビーカーってこんな使い方…したっけ?
頭の中が「?」でいっぱいになっていると

「市ノ瀬よ、お前の目は節穴か?
それがビーカー以外の何に見えるんだ?」

何食わぬ顔でビーカーであることを認めた。

この人、変だ。
いやその前に…。

色々な考えやら批判が頭の中に浮かぶうちにそれが声に出たのかもしれない。

「理科教員ってのは料理上手いんだ。だから味は保証する。

ま、食べたくないなら別にいいけど。」
とおかずを取られ…いや盗られそうになった。
思わず「いただきます!」と慌てて挨拶をして食事を始める。せっかくのご飯を今更取り上げられる訳にはいかない。


野菜炒めを一口口に含む。まだ出来立てだから熱が口の中に広がる。

それでも「おいし…。」と思わず呟いてしまう位に美味しかった。
悔しいけれど塩加減や炒め具合が調度良い。男の人だからって少し甘くみてたかも。理科教員侮るべからず。


そんな考えとは裏腹に久々の美味しい手料理に思わず笑みが零れてしまった。




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