黒白の彼方

また放課後の時のような感覚。あたしの中を見透かされたような、あの感覚。
あたしの「お面」がばれてる?
あれは精々青衣と灰原先生くらいしか知らないのに。…とにかく何か言わなきゃ。


「…何で…いや、その…何を言って…」
「理科教員ってのはな洞察力が良いんだ。お前の猫被りなんかお見通しなんだよ。」


言葉を途中で遮られて何も言えなくなって思わず俯いてしまった。
最悪だ。今のは動揺し過ぎて歯切れが悪かった。あたしらしくない。
久々尽くしで緩みきってた。

早くちゃんと「お面」を付けてもう一度ちゃんと返事しなきゃ。いつもの様に。学校のクラスメイトやお客さんに接するみたいに。
「愛想の良い、当たり障りのない市ノ瀬真琴」にならなきゃ。
「そんなことないです~。あたしいつも全開で表情出してますよ。洞察力云々言っちゃって、大外れじゃないですか。」って早く言わなきゃ。

なのに頭の中によぎる。今までの事が。
あの事件の事やそれからの出来事が。
それが邪魔して口が開かない。こんな時に限って。

早く言わなきゃならないのに…。

心を見透かされたくない。もう傷つきたくない。
だから一人でいさせて。あたしの為に。貴方達の為に。
怖い。

その思いがまたあたしの口を閉ざしてしまう。


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