好きとは言えなくて…
「そんな所でどうしたの?」


まさか私から声をかけるとは思っていなかったのか斉藤君は驚いた顔で私を見る。


あれ? 私に用じゃなかった?



「私じゃなくて誰か違う人を待ってたんだ。
斉藤君、またね」


そう言いながら斉藤君に手を降ってその場から立ち去ろうとしたら鞄を持っていなかった右手を掴まれた。


何事かと思って振り返ると私の手を掴む斉藤君がいた。


まぁ、そうだとは思ったけどね。


「私に何か用事だった?」


斉藤君の手は僅かに震えていたけど真剣な顔をして私を見つめる。


「あの! ここではなんですので裏庭行きましょう」



「うん。わかった。
とりあえず手を放してくれない?」


このまま掴まれたままだと動きづらいからね。


「すっ、すす…すみません」


斉藤君は慌てて私から手を放してくれて私はスタスタと廊下を歩いた。


後ろからは『ちょっと。最上さん!?』私の行動に驚きを隠せないように斉藤君は私の名を呼んだ。


「裏庭で話あるんでしょ?」


ピタッと一度止まって後ろを振り向いて斉藤君を促す。
斉藤君は『はい!』と嬉しそうな顔をして私の後を着いてきた。


斉藤君を見て何だか生まれたばかりの子犬みたいって思った。





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