好きとは言えなくて…
*****


「由衣ちゃんがそんなにもボーッとしてるなんて珍しいわね。
何かあった?」


私は洗い場で食器を洗っていると奥さんが話しかけてきた。


奥さんは名字ではなくて私が働いてるケーキ屋さんのオーナーの奥さんだ。
ここで働く人はこの人を奥さんと呼ぶんだ。


「すみません。迷惑でしたか?」


もしかしてお客さんの前でもボーッとしてるかもと思って奥さんに謝る。
私はここに雇って貰ってるのに迷惑なんてかけるとかなんという失態だ。



「お客さんの前では普通にやってるから大丈夫よ
悩んでる事があれば話聞くけど?」


奥さんは楽しそうに笑いながら私を見つめた。


この奥さんしかり、菜美ちゃんや斉藤君それに佐倉君。
私はなんていい人に囲まれてるんだろう。

そんなこと昔だったら感じる事ができなかったと思う。


「自分の気持ちがわからないんです」


お皿を洗いながら奥さんにしか聞こえないくらいの小さな声で呟いた。


「自分の気持ちがわからない? それは具体的にどんなこと?」


「私には小学生の時から憧れてる男の子がいました。私にとっては眩しくてその人を見つめることしか出来ませんでした。その男の子と最近連絡を取り合ってていつの間にか憧れとは違う感情が芽生えました」



「あら。由衣ちゃんも青春してるのね。その憧れの人とはどうなったの?」


奥さんは優しい眼差しで私を見つめて話の先を促した。


「でも、その人には私ではない好きな人がいました。
それでその人は今日好きな子に告白されたそうです。

その人は自分から告白したいからということで好きな人からの告白に返事をしなった。それなのにその人は私を心配して電話やメールをしてくれたりしました」


事実を話してるのに何だか悲しくなってくる。



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