好きとは言えなくて…
「佐倉君? 嬉しそうな顔してどうしたの?」

市川は俺の顔を覗きこみながらもキョトンとした表情で俺を見た。

前ならこの表情見ただけで物凄く嬉しいんだろうな。


って、俺はさっきから何を考えてるんだよ。市川と最上を比べても仕方ないだろうが。市川は市川なんだから。



「市川と手を繋げて嬉しいなって。
折角だから屋上でご飯食べない?」


誤魔化すようにそう言うと市川は嬉しそうに頷いた。


嬉しそうに笑う市川を見て言いようがない罪悪感が生まれる。



「ねえねえ。佐倉君。
折角付き合ってるんだから名前で呼んでいい?」


クルッと俺の方を見ながらも市川は提案をする。


「うん。いいけど。
俺も市川の事を梢って呼んでもいいの?」


「梢…うん。いい響きだね♪
私はたっくんって呼んでもいい?」



『たっくん』


まさかこのニックネームが梢の口から出てくるとは思わなかった。


それと同時に小学生の時に一人教室にいた最上が愛しいそうに呟いた『たっくん』という声を思い出す。



「たっくんって子供過ぎない? 普通に竜貴でいいよ」


「そっか…じゃあ竜貴君って呼ぶね」


梢は物凄く残念そうに呟くけど最上以外の人にたっくんって呼び名は呼んでほしくないと思った。



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