先生は何も知らない
(ああいう時?)
川嶋は斎藤を見た。少しの興味を示した川嶋に、斎藤は満足げにほくそ笑む。
「元彼がね、新しい彼女が出来たってわざわざ自慢しに来たの。でもあたし、無視して来ちゃった」
「そうですか」
そんな話は、川嶋の専門外だ。川嶋は缶コーヒーを手に職員室へと足を向ける。コーヒーが苦手だというのを何となくこの生徒には知られたくないので、なるべくそれを悟られないように。
そんな川嶋の広い背中を、斎藤は呼び止める。
「だって、何か言おうとしたらあたし泣いちゃいそうだったの。でも、やっぱり今思えばあんな態度は良くなかったと思う。本当は笑っておめでとうって言うのが一番かもしれなかったけど、どうやって笑えば良いのか分からなかったの」
川嶋は斎藤に振り返った。
「別に、笑う必要は無いんじゃないの」
以前付き合っていた彼女に新しく出来た彼女を自慢する神経が理解出来ない。そんな川嶋の考えを端的に表しただけのことだったが、その時斎藤はハッと目を真ん丸に見開いて、何か珍しいものでも見るかのように川嶋を見上げたのだった。
川嶋は言うだけ言って直ぐにまた足を進める。その背中に、斎藤はまた一つ声を掛けた。
「川嶋先生、この間の小テストで間違ったとこ、答え見ても分からないとこがあったので質問しに行っても良いですか。――」
先生、笑い方を教えてよ*完
川嶋は斎藤を見た。少しの興味を示した川嶋に、斎藤は満足げにほくそ笑む。
「元彼がね、新しい彼女が出来たってわざわざ自慢しに来たの。でもあたし、無視して来ちゃった」
「そうですか」
そんな話は、川嶋の専門外だ。川嶋は缶コーヒーを手に職員室へと足を向ける。コーヒーが苦手だというのを何となくこの生徒には知られたくないので、なるべくそれを悟られないように。
そんな川嶋の広い背中を、斎藤は呼び止める。
「だって、何か言おうとしたらあたし泣いちゃいそうだったの。でも、やっぱり今思えばあんな態度は良くなかったと思う。本当は笑っておめでとうって言うのが一番かもしれなかったけど、どうやって笑えば良いのか分からなかったの」
川嶋は斎藤に振り返った。
「別に、笑う必要は無いんじゃないの」
以前付き合っていた彼女に新しく出来た彼女を自慢する神経が理解出来ない。そんな川嶋の考えを端的に表しただけのことだったが、その時斎藤はハッと目を真ん丸に見開いて、何か珍しいものでも見るかのように川嶋を見上げたのだった。
川嶋は言うだけ言って直ぐにまた足を進める。その背中に、斎藤はまた一つ声を掛けた。
「川嶋先生、この間の小テストで間違ったとこ、答え見ても分からないとこがあったので質問しに行っても良いですか。――」
先生、笑い方を教えてよ*完