きみのとなり
好きな人
「まだ回るの?」
「あ、はい」
梢が遠慮がちに返事をした。
拓ちゃんと岩村さんによって作り出された気まずい空気を田中君と司さんが
何とか盛り上げて、その勢いで私達は部屋を出てきた。
だけど、みんなで廊下へ出た所へまた河野さんがやって来たんだ。
「…未来ちゃん」
「…はい」
「これね、拓海のだよ」
「………」
河野さんは突然着ていた服を掴んで言った。
「見たことあるって言ったでしょ?拓海のだからだよ。男子が女装なら、スタッフの女子は男装しようってなって」
「…そう…ですか…」
「未来ちゃんもやる?そこの彼と」
そこの彼と言って河野さんが目を向けたのは、鈴木君。
「好きな人の服に包まれてるって、気持ちいいの。…でも……」
もうやめてと
叫んでしまえばよかったんだ。
そうすればーー
「一番は、本人の腕の中だけどね?」
「っ…」
傷付くことなんて、聞かなくて済んだのに…