きみのとなり
ほんとの気持ち
やっぱりこうなるよね。
目の前にはグツグツと音をたてて、煮込まれている肉や野菜。
そして真向かいの席には
「も~う!久しぶりじゃないの~!拓海君ったら、全然ご飯食べに来てくれないんだもん!おばさん寂しかったわ~!」
「すいません。部活で疲れて、すぐに寝ちゃったりとかだったんで。なかなか来れなくなってしまって。」
「拓海君!お肉煮えたから食べなさい!おじさんはいいんだ。ネギが好きだからね。さ、食べて食べて!」
「ありがとうございます。」
拓ちゃんだ。
今日はすき焼きだ。
久しぶりに我が家へご飯を食べにお気に入りの拓ちゃんが来たのだから、うちの両親はとても機嫌が良い。
「兄ちゃんばっかりずるい!肉俺も食いたい!」
「裕介君もどーぞ!」
キャピッという効果音が聞こえてきそうなくらい、母は機嫌が良いのだ。
「おじさんはね、未来の彼氏は拓海君だと思っていたんだよ~。それなのに、それなのに~」
わーっと泣き出すお父さん。
お酒が入って涙もろくなってしまっている。
「めんどくさいなー」
「未来!あの鈴木とかいう小僧とは別れてすぐに拓海君とお付き合いしなさい!」
「ぶっ!」
思わず飲んでいたお茶を吹き出しそうになってしまった。
「はぁ!?バッカじゃないの。お父さん飲み過ぎ。」
「未来ちゃん。私も未来ちゃんが生まれたときからそう思ってたのよ~」
そうやって言うのは拓ちゃんと裕介のお母さんである、隣のおばさんだ。
「でもダメよね?拓海君にはかわいい彼女さんがいるから」
と続けてうちのお母さん。
「……」
私は黙るしかなかった。
だって、さりげなくお母さんたちが拓ちゃんの地雷を踏んだから。
グツグツと鍋の音だけが嫌に部屋に響く。
「たまごー」
裕介が空気も読まず卵を割って箸でカシャカシャとかき混ぜる。
「……実は」
拓ちゃんが静かに箸を置いて姿勢を正した。
私は何も知らないフリをしてお肉を口に入れた。