きみのとなり


気にすることないじゃない。


拓ちゃんなんか、どうでもいいもん。


そうだよ。


どうでも……




「……分かったよ。今から行くよ。だから、泣くなよ」



拓ちゃんはそう言うと、優しい声で何かを言ってから電話を切った。



リビングに向かう拓ちゃん。



今から行くの?


河野さんのところに?



最後に電話を切る前に聞こえてしまった。



泣きじゃくる河野さんの言葉。



『好き。拓海じゃなきゃダメ』



だから来てほしいって。



河野さんにそう言われた拓ちゃんは、そっちに行くって言って電話を切った。



行くの?


やっぱり河野さんのことが



好きだから?



また、行っちゃうの?





「あれ?未来は?」


リビングから聞こえる拓ちゃんの声。



「あー、俺に肉奪われてぶうたれてトイレ行ったー 」


「そっ…か…」


拓ちゃんが座る気配はない。



行っちゃうんだ。



『好き。拓海じゃなきゃダメ』ーー



頭の中をさっき聞こえた河野さんの言葉ぎぐるぐる回る。


「あの、俺、ちょっと友達に呼び出されたんで行ってきます。」


「あら、そうなの?」


「はい。すいません。おばさん、おじさん。ご馳走さまでした。おいしかったです。」


はーい!なんてお母さんは言ってまたご機嫌だ。


拓ちゃんがお邪魔しましたなんて言って玄関に向かう。



私は、洗面所に隠れたままだ。


『好き。拓海じゃなきゃダメ』


その言葉が何回も頭の中で繰り返される。




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