僕たちの時間(とき)
遥と出会ったあの日から。
まだそんなに日数が経っていないというのに、何度もそんな考えが脳裏を過ぎる。
彼女といるのが苦痛でもないのに……。
いや、むしろ遥と話しているのは楽しい。
彼女は明るく快活な人で、くるくるとよく喋り、そしてよく動く。
彼女を見ていると飽きない。
女の子と話していてこんなにも楽しいと感じられたことなど、かつて一度としてあっただろうか。
それに何よりも、僕を好きだと言ってくれる。その気持ちが嬉しい。
――なのに……何かが違う、そんな感じで……。
そう、彼女の言い方を借りるならば。
僕は、遥の前ではいつでも“BEST”でいることができない、ということなのだろうと思う。
“BAD”ってことは絶対ないけれど、せいぜい“BETTER”止まり。
彼女の前では、僕が僕自身そのままの姿でいることはできない。
それを、痛感する……―――。
ふいに肩を叩かれて。
フロアの一番スミでボーっとパイプ椅子に座っていた僕は、それでハッとして我に返った。
振り返ると、そこには光流が立っていた。
「あ…! 話、終わったのか……?」
「まぁな」
答えながら、光流も近くからパイプ椅子を引きずり出してくると、僕の隣に腰掛けた。
ここの備品の置き場所なんて、僕も光流も知り尽くしている。
「一応、ここに来た目的は《B・ハーツ》のライブだからな。それに間に合うようには、戻って来るさ」
「そりゃ、ごもっともだけど……」
僕が口ごもった瞬間、照明が落ち、ステージが明るくなった。
客の歓声がひときわ高まる。
カウントを唱える遥の声が響き、そして大音響に包まれると同時、ステージから眩(まばゆ)い光が放たれる。
最初から全員総立ちで――もっとも、ハナっから椅子なんて用意されてもいないけど――、一番後ろで座ったままの僕らなんて、前が見えない。
彼等が出てくるだけで、こんなにまで客は盛り上がるのか。
「すげぇよな……」
「あぁ……」
光流の呟きに、僕は心底からの相づちを打った。
でも、それだけだった。
僕らはお互い、何も言わずに座っていた。
まだそんなに日数が経っていないというのに、何度もそんな考えが脳裏を過ぎる。
彼女といるのが苦痛でもないのに……。
いや、むしろ遥と話しているのは楽しい。
彼女は明るく快活な人で、くるくるとよく喋り、そしてよく動く。
彼女を見ていると飽きない。
女の子と話していてこんなにも楽しいと感じられたことなど、かつて一度としてあっただろうか。
それに何よりも、僕を好きだと言ってくれる。その気持ちが嬉しい。
――なのに……何かが違う、そんな感じで……。
そう、彼女の言い方を借りるならば。
僕は、遥の前ではいつでも“BEST”でいることができない、ということなのだろうと思う。
“BAD”ってことは絶対ないけれど、せいぜい“BETTER”止まり。
彼女の前では、僕が僕自身そのままの姿でいることはできない。
それを、痛感する……―――。
ふいに肩を叩かれて。
フロアの一番スミでボーっとパイプ椅子に座っていた僕は、それでハッとして我に返った。
振り返ると、そこには光流が立っていた。
「あ…! 話、終わったのか……?」
「まぁな」
答えながら、光流も近くからパイプ椅子を引きずり出してくると、僕の隣に腰掛けた。
ここの備品の置き場所なんて、僕も光流も知り尽くしている。
「一応、ここに来た目的は《B・ハーツ》のライブだからな。それに間に合うようには、戻って来るさ」
「そりゃ、ごもっともだけど……」
僕が口ごもった瞬間、照明が落ち、ステージが明るくなった。
客の歓声がひときわ高まる。
カウントを唱える遥の声が響き、そして大音響に包まれると同時、ステージから眩(まばゆ)い光が放たれる。
最初から全員総立ちで――もっとも、ハナっから椅子なんて用意されてもいないけど――、一番後ろで座ったままの僕らなんて、前が見えない。
彼等が出てくるだけで、こんなにまで客は盛り上がるのか。
「すげぇよな……」
「あぁ……」
光流の呟きに、僕は心底からの相づちを打った。
でも、それだけだった。
僕らはお互い、何も言わずに座っていた。