僕たちの時間(とき)
「あなた『ミツル』くん、でしょ? 《ウォーター・ムーン》の……」

 光流は無言で頷いた。

 微笑みを絶やさず、遥は続ける。

「サトシは、どうしたの?」

「もう帰った。だから俺が伝言を預かってる」

「伝言? なぁに?」

「あんたに『よろしく』だとさ。あとチケットのお礼」

「それだけ……?」

 遥の顔から笑みが消える。

「他には?」

「別に何も」

「じゃあ君は、そんなことを言うためだけに、私を待っていたっていうの?」

「――それだけだと思うか?」

「え……?」

「聡の言ったことは伝えた。今度は俺の言うことも、聞いてもらいたいんだけど」

 有無を言わせぬ光流の口調に、遥はたじろぎ、口をつぐんだ。

 だが光流はそんな彼女の様子に気を遣うでもなく、いつもの調子で淡々と、言葉を継ぐ。

「明日……俺達の、練習がある。――そこに来ないか?」

「え…?」

「もちろん、練習中の見学はこっちからお断りだ。でも終わった後になら問題は無いからな。聡を引き止めておいてやるよ。スタジオの方も、明日は俺達の後の時間帯が都合良く空いてるみたいだしな」

「どういう、つもり……なの……?」

「何が?」

「私……あなたは“反対”するものだとばかり、思ってたけど……」

「俺の方こそ、どうしてそう思ったのか聞きたいね。――俺にどんな“反対する理由”なんてものがあるんだ?」

 遥はそこで、ぐっと言葉に詰まった。
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