僕たちの時間(とき)
「あんたはどうしてそんなことを考える? あんたは聡の何を知ってるっていうんだ?」

「し、知らない! 何も知らないわっ! ここで唄ってるサトシしか、私は、知らないっ……!」

 その声はかすかに震えていた。

 かぶりを振ってうつむき、その視線を決して光流と合わせようとはしなかった。

 そんな彼女に向かって、やはり淡々と光流は言う。

「聡には……あんた“だけ”、なんだろ……?」

「――――!!」

 ハッキリと、遥の表情に驚愕と戸惑いの色が現れた。

 だが、それをあえて気付かぬフリで、光流は続ける。

「“親友の俺”が、聡(あいつ)の決めたことに“反対するはずが無い”だろう?」

「…………」

 遥は完全に押し黙った。

 しばしの沈黙。

 ――後、彼女は落としていた頭(こうべ)を上げ、光流の顔を見据えて、決心したように重々しく口を開いた。

「信じるわ……あなたはサトシの親友、ですものね……」

「あぁ、親友だ。1番の良き理解者でありたいと、常に願ってるさ」

 そう答えると、光流はジーンズのポケットから1枚の紙を取り出し、それを遥に差し出した。

 そして告げる。

「これがスタジオの住所と地図。明日の練習は夕方6時までの予定だから、そのくらいの時間に来るんだな」

 遥は黙って受け取った。

 そしてしばらく広げたそれを見つめ、そのまま瞳を伏せる。

「ありがとう、そうするわ」…呟き、自分のポケットに折り畳んだそれをしまった。
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