僕たちの時間(とき)

10.ONLY… ――気持ちの帰る場所

「今日はここまでにしとこーぜ」

 そう光流が言ったのは、まだ5時半を過ぎたばかりの時刻だった。

 よし、ラストに一発、気ィ締めていくかーッ! と、意気込んだ矢先のことだ。

 その言葉を受けた僕ら3人、不意を突かれて光流を眺めるしかなかった。

「お、おい光流。まだ5時半じゃねーか。今日は確か6時までじゃ……」

「そのつもりだったけど……これ以上続けても無駄な奴が1人、いるからな」

 超シビアなそのセリフに、僕らはそろって黙り込んだ。

 ――言わずとも知れたこと……そんなの僕に、決まってる……。

 光流だけでなく、ケンやトシだって、とっくに気が付いているはずだ。

「光流……それはちょっと言い過ぎじゃあ……」

「いいんだ、トシ。その通りだから……」

 見かねて僕を弁護しかけたトシの言葉を、あえて自分から遮る。

「ごめん、やっぱ光流の言った通りだ。続けてもたぶん、調子戻んねーよ……」

「聡……」

「迷惑かけて、ホントごめん……」

「…………」

 何か言いたそうな、一瞬の沈黙。

 そして光流の声が、部屋の白けた空気に響き渡った。

「決まったな。じゃ、これで解散! 明日の練習、遅れるなよ」

 そうして皆、それぞれの楽器を片付け始める。

「あと、聡」

 僕が肩からベースを下ろした時。

 やはり光流からの声がかかった。

「おまえはちょっと残ってけ」

「わかってる……」

 ある程度予想していた言葉だったから、もう覚悟はできている。

 僕は傍らの椅子に座り込み、コードを掴むとそのまま勢いよくアンプから引っこ抜いた。
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