僕たちの時間(とき)
 時計の針は、もう間もなく5時50分を指そうとしている。

 光流はずっと僕の前に座ってギターを爪弾いていたが、しかし何も言わなかった。

 今でさえも、僕のことなんてまるで目に入ってない様子で、相変わらず指先で弦を弾(はじ)いている。

 ――アンプを通さないギターの音色は……何だかもの哀しい音に、聴こえた……。

「光流……」

 その沈黙がたまらなくて、とうとう僕の方から声をかけた。

 ――でも……顔を上げることはまだ、できなかった……。

「怒ってるのか…? オレが、勝手なことばかりしてるから……」

 光流の指が止まる。

「昨日から自分勝手なことばかり言って……おまけに勝手に1人で調子崩して……おまえだけじゃなく、みんなにも迷惑かけて……」

 ゴトッ…と、光流がギターを置いた音が、静かな空気の中で響いた。

 その瞳が、じっと僕を見つめているのを感じる。

 光流は、ゆっくりと口を開いた。

「間違ってると、思ってるのか……?」

「え……?」

 僕の肩がピクリと震えた。

「おまえは自分の出した結論(こたえ)を、疑ってるのか……?」

 思ってもみなかった言葉だった。僕の中の言葉が徐々に失くなり、頭の中が真っ白になっていくようだった。

(間違っている……? 自分が……?)

 考えたこともない。

 でもそれを考えるのは、とても“危険”なことのように思われた。

 そう、蓋をしなくては……!

 しかし、光流の言葉はまだ続いている。せっかく蓋で覆ったのに……覆ったそばから、またペリペリと剥がされてゆく。

「おまえが決めたことに…おまえがこれでいいんだと決断したことになら、俺は別に何も言う気はないさ。――だけど“これでいいのか?”なんて、ウジウジ悩んでるようなことには、何か言いたくもなる!」

「――――!!」
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