僕たちの時間(とき)
「――どうして、水月が……?」

「そう言いたいのは俺だ。――聡。おまえは藤沢と別れて『はるか』とつきあうことに決めたんだろう? なのにどうして、ケンのあんな一言で調子崩すんだよ」

「あれが理由じゃ……」

「理由だろ? 少なくとも藤沢の話題が出なけりゃ、おまえはもう少しくらい集中して唄えてたはずだ」

 僕は、何も言い返せずに押し黙った。

 ――そんなことはもう、わかってた……。

 光流は、更にたたみかける。

「おまえの…本当に心から望んでいるものは、何だよ?」

「オレの……望んでいるもの……?」

「望んだものを得られる方法が、自分にとっての“最良の選択”って、いうんだぜ」


 パキン! ――心の中で何かが砕けた。


 心の奥の奥を、包(くる)み込んでいた硬いカラ。

 抑えられていた想いが溢れ出す。

“チガウ…チガウ……!”

 理性が必死に反発している。

 だが押し込めていた“本当の自分”を解放させられた今、感情は正直だった。

 僕の望み。僕が一番想うこと。

 それは唯だ1つだけ。


 ―――ミツキガ……イトオシイ………!


「認めたくなかったんだ……」

 僕の唇が、無意識のうちに言葉を紡ぐ。

「信じたくなかったんだ……! 水月が、オレの隣からいなくなることなんて……水月が、オレを拒絶したなんて……!!」

 あの時足りなかった破片(ピース)が、今になってやっと見えた。

 足りなかったのは、僕の想い。

 こんなにも水月を求めている僕の心が在ることに、あの時、どうして気が付かなかったのだろう。


 失うには大きすぎて。

 だから求めてしまった。

 ――遥を。

 それはただの“代替(かわ)り”でしか、ないのに……!
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