僕たちの時間(とき)
「光流……」

「ん?」

「“原因”…見えたハッキリ。オレは、遥まで傷つけてしまうんだな……遥を“逃げ場所”にしてしまった、オレ自身の弱さのせいで……」

「聡……」

「でも、もう抑えらんねーよ。オレは水月が好きなんだ。――忘れることなんて、できないくらいに……」

「…………」

「…………」

「――ばぁあーっか!」

 ふいに光流の表情がくずれた。

 僕を見つめる視線は柔らかく、その口許は笑っていた。

「なーに当然のこと言ってんだよ。今サラ気がついたのかよ、タコ!」

「ホント今サラだよ。どーしようもねーよ。最初から気持ちは1つだったのに……1つしか、なかったのに……」

“BEST”は2つもあるはずがない。当然のことだ。

「オレは遥がうらやましかったのかもしれない。だから惹かれたんだと思う。あんなに素直に“BEST”って言える……オレができないことを、平気で言ってのける……そんな遥だから……」


「勝手に“好き”だって錯覚して“逃げ場所”にしてた…ってコト、なんだ……?」


 突然そこで聞こえてきた、思わぬ声に驚いて振り返る。

「は…る、か……?」

 入口の扉の傍らで。そこに1人立っていたのは、一ノ瀬遥、そのひとだった。
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