僕たちの時間(とき)
「一度水月から離れてしまったオレが、今サラ何を告げても! でもそれはもう言い訳にしかならないんだ! もう、どんな言葉も……水月に信じてはもらえない……!!」

 伝えるべき言葉を持たない僕が、どうやって彼女のもとに帰れるというんだ……!!

「だから、もう……」

「――おい、聡!」

 いきなり光流が僕の肩を掴んだ。

「おまえ……その様子じゃあ、すっかり忘れてるらしいな」

「え……?」

(何…を……?)

「明後日。俺達《ウォーター・ムーン》の、夏休み初ライブ!」

 言って光流は、チケットを取り出し、僕の目の前に掲げてみせた。

「ライブに誘うくらいなら、何てことねーだろ?」

「あっ……!!」

「おまえが唄ってる意味、忘れんじゃねーよ」

「光流……」

「伝わるのは……何も言葉だけじゃないさ」

 光流は僕の手を取り、はたくようにしてそのチケットを手のひらにのせた。

「ガキのワガママの1つくらいじゃあ、バチは当たんないぜ?」

「あぁ…、そうだな……」

 僕はチケットを握りしめる。

 ――伝えられる“言葉”がまだ、僕には残されていた……!

(もう一度、信じてもらえるかもしれない……!)

「オレ、今から言ってくる!」

 いてもたってもいられずに、僕はギターケースを掴んで駆け出した。

 ドアに手を掛け、しかしそこで僕は立ち止まった。

 そして後ろを振り返る。

「光流。それから遥。…さんきゅー、な!」

 呆れたような声で、遥は応えた。

「もう浮気するんじゃないわよ!」

「オレ…、ホントにおまえのこと好きなんだぜ、遥」

「2番目に…でしょ? ――そんな男、一番嫌いよ!」

 遥の言葉に軽く微笑みを返し、僕は部屋から飛び出した。そして走った。

 気持ちの…そして“心”の、帰るべき場所(ひと)に向かって……。
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