僕たちの時間(とき)




「私……カノジョの気持ち、わかるような気がするな……」

 そんな遥の呟きに、光流は彼女を振り返った。

「でも、サトシなんかに教えてあげない。――女心なんていつも……言葉とはうらはら、なんだから……」

 ストンと、そのまま遥は椅子に腰を落とす。

「ホント、素直になって飛び込んじゃえれば、どんなにいいかしれないのにね……」

 光流は無言で遥に歩み寄り、彼女の頭を自分の胸に引き寄せた。

 遥は、抗いもせずにそのままもたれる。

「――あんたもバカね……」

「少しは悪かったと思ってるからな。胸くらいは貸してやるよ」

「ホント、バカばっかりよ……!」

 遥の手が、光流のシャツの背中を掴んだ。

「カノジョ持ちのくせに……優しくなんて、しないでよッ……!」

 シャツを握った手から伝わる微かな震えに、光流は気付かないフリをする。


「所詮……あんたじゃ“悪女(ワル)”には、なり切れなかったな」


 ――白いシャツが、涙に濡れた。
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