僕たちの時間(とき)




 ――コンコン。


「ハイ? お姉ちゃん……?」

 ノックに、中から水月の応える声がした。

 僕は何も言わずにキィッとドアを開ける。

 部屋の中は宵闇の帳(とばり)に包まれ、ただ窓のほの白い明かりが、ベッドに起き上がっている水月の輪郭(かたち)を描いていた。

「誰……?」

 水月が問うた。

 僕は手さぐりで壁に電灯のスイッチを探す。

 あかりを点けると、その眩しさに、一瞬、目が眩(くら)んだ。

「さとし…くん……?」

 眩しさに目を細め、それでも必死に瞳を凝らして、水月は呟く。

 そして叫んだ。

「聡くんなのね!?」

「あぁ……」

 2人の間に気まずい沈黙が流れる。

 僕の耳には、時計のチクタクと時を刻む音だけが、妙に大きく響いていた。

 ―――その静寂を、水月が破った。

「なぜ、来たの?」

「…………」

「何しに、来たの……?」

「おまえと……話をするために……」

「話…? 私は話すことなんてないわ。もう面会時間も過ぎてるし、帰って……」

「嫌だ!!」

 言い放った僕を驚きを湛えて見つめる、その瞳を捕らえて。

 僕は叫ぶように吐き出していた。

「オレはもう後悔したくない! 後悔するのは嫌なんだ!!」
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