僕たちの時間(とき)
「聡くん……?」

「オレは、水月が望むなら黙って離れようと思った。だから、別の女の子とつきあおうとも、した。――でも、ダメだった……」

 思いつくまま言葉にしていた。

 ここに来ることだけに頭が一杯で、言うべきことを何も整理できていなかったから……。

「何かが違うって、ずっとずっと考えてた。考えて行き着くのは、いつも水月のところだった。けど忘れなきゃいけないって、必死で打ち消そうとした。見ないフリをした。だけどっ……!」

 出てくる言葉はこんなにもぐちゃぐちゃなのに……何でこんなにも頭の中がクリアーなのだろう。不思議だ。

 伝えたかったことが、溢れてくる。

「ダメなんだよ! ほんの少しのことでどうにかなっちまうほど、おまえのことが好きなんだ! 水月じゃないと、ダメなんだよッ……!!」

「何を……今サラ……」

「今サラだってことは充分わかってる! こんなのオレのワガママでしかない! でもオレは、どうしようもなくまだ子供(ガキ)だから、自分を抑えられない! おまえが幸せであればそれでいいって思ってるのに、オレもおまえと一緒に幸せになりたいんだ!」

「だけど……聡くんに出来ることなんて、何もないよ……?」

「それはッ……!」

 水月の淡々としたセリフに、僕はそこで答えを言いよどんだ。

「そうかも、しれないけど……」

「なら、やめなよ。私は聡くんを自己満足に浸らせてあげるために病気になったわけじゃないし、そうさせてあげるつもりもないわ。自己満足なんて、何も生まないよ? するだけ無駄だよ? やめときなよ、そんな非生産的なこと……」

「そんな、自己満足なんかじゃ……!」

「聡くんは私じゃなくてもいいのよ。自己満足に浸らせてくれる相手なら、誰だって……」

「違うっ!」

「どこが違うの? 言葉で言うだけなら、誰にでも言えるわ」

「違う、絶対に! オレは自己満足なんかのためにここへ戻ってきたわけじゃない! 本当に、水月じゃないとダメなんだって、気付いたから……!!」
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