僕たちの時間(とき)
 水月は、そんな僕を食い入るように見つめていた。

 だが、そこからうかがえる表情からは、何の感情も読み取れなかった。

「あいつが生きている間、オレはあいつに何をしてあげられたのか……考えるたび、何も出来なかった自分が悔しかった。どんな想いで自分の死を受け入れたんだろう……思うたび、あいつならきっと笑って受け入れてしまったんだろうなって、あいつの笑顔が浮かんで……代わってやることができなかった自分を、また悔やんで……!

 ――“幸せ”なんてものを知らないまま逝くことは、どんなに哀しいことだろうって思う。

 オレが後悔していたのは、大切な人にそんな思いをさせてしまった、オレ自身に対して、だったのかもしれない……」

「…………」

「――水月にも…! そんな思いを、させたくはないんだ……!!」

 水月の表情に、刹那、ハッとしたような驚きの色が走った。

「死が受け入れなくてはならないものなら、オレはもう目を逸らさない。おまえを哀しみの中では逝かせない。…決して!」

 いつの間にか僕は、水月の両腕を掴んで必死の体(てい)で訴えかけていた。

「与えられた残りの命を、満ち足りた幸せの中で、精一杯輝かせて生きて欲しいから……! オレも、そんなおまえを見守って、そして後悔せずに見送りたいって……そう、思ってるから……!」

「聡くん……」

「オレはまだガキだから……皆に助けてもらわなけりゃ、何にも出来ないバカだから……オレ1人じゃ幸せを与えてやることなんて、悔しいけど出来やしない。けど2人でなら…! 一緒に幸せを作って育んでゆける。いくらでも……! ――そんな気が、するから……」

「…………」
< 127 / 281 >

この作品をシェア

pagetop