僕たちの時間(とき)
 ふと気付くと、水月は静かに泣いていた。

 声も立てず、ただ涙だけが頬を伝ってゆく。

 唇をきつく結んで、歯を食い縛って、泣くのを堪えようとしているのが僕にもわかったけれど……涙はどうしても止まらなかった。

 胸の奥がチクリと痛む。

「ごめん……困らせるつもりはなかったんだ……」

 僕は指で水月の頬を軽く拭った。

「もう帰るから、だから泣くのやめろよ……もう何も、言わないから………」

 しかし、僕が何か言えば言うほど、それは逆効果のように思われた。

 泣き顔の水月を残していくのは気がかりだけど、僕が涙のもとになるのなら……。

「明後日……待ってる、な……」

 そう言い置いて、僕は踵を返した。

 電灯を消して呟く。


「――おやすみ……」


 背中で閉じたドアの向こう。

 暗闇と静寂だけが、僕には感じられていた―――。
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